高齢者は噛むことや飲み込むことに課題を抱えている人が少なくありませんが、そのような場合でも食事や薬を摂取しやすくするためによく用いられるのがとろみです。
この記事ではとろみを使用する目的から適切なご飯へのとろみのつけ方まで詳しく解説します。
高齢者でも食べやすい食事
高齢者は噛む力や飲み込む力が低下してくるため、食べ物や薬がバラバラになっていきなり喉に入るとむせてしまったり、気道に入ってしまったりして誤嚥を引き起こします。
誤嚥とは食道に入るはずのものが気道に入ることを指し、誤って気道に入ったものをむせることで取り除ければ良いのですが、この咳嗽(がいそう)反射が鈍くなっているとむせずに誤嚥したままとなり、誤嚥性肺炎の発症につながってしまうのです。
厚生労働省が2020年に行った「令和2年人口動態統計月報年計(概数)」の結果によると誤嚥性肺炎による死亡者は42,746人で、2019年と比較すると2500人程度増加しています。
介護施設でも家庭でも、誤嚥防止のためには高齢者の噛む力や飲み込む力に配慮した食べやすいとろみをつけた食事を提供することが大切だと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「令和2年人口動態統計月報年計(概数)の概況」
a)食べ物や飲み物をゆっくりと喉へ送れる
ご飯にとろみをつけるメリットの1つめは食べ物や飲み物をゆっくりと喉へ送れるということです。
高齢者は飲み込みのタイミングが合わなくなってむせてしまうことがあるため、とろみをつけることで喉へ流れ込むスピードを遅くする仕組みです。
b)飲み込みやすくする
ご飯にとろみをつけるメリットの2つめは食べ物がひとまとまりになるため、正しく食道へと流れやすくなることです。
高齢者は食べる際の姿勢などもあまり良いとは言えない場合が多いため、正しく食道へと食べ物や飲み物が流れにくいのですが、ご飯にとろみをつけることで気道へと流れるリスクを低下させることができます。
2.とろみ剤と、ご飯からとろみ
高齢者の人が食べやすくなる程度のご飯のとろみとはどのようなものなのかを3つの観点からご紹介します。
a)とろみの段階(テーブル)
介護施設などではとろみの基準として、2013年に日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が発表した「とろみ早見表」がよく用いられているためご紹介します。
とろみの段階 |
内容 |
薄いとろみ |
・スプーンを傾けるとすっと流れる ・ストローで簡単に吸える ・口の中でとろみが気にならない |
中間のとろみ |
・スプーンを傾けるとゆっくりと流れる ・太いストローなら吸える ・口の中で広がらず舌でまとめやすい |
濃いとろみ |
・スプーンを傾けても形状が保たれ流れにくい ・ストローでは吸えない ・口の中で明らかにとろみがついていてまとまりが良い |
粘度やLST値などの基準も早見表には記載があるので、興味のある人は確認してみましょう。
参考:日本摂食・嚥下リハビリテーション学会「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013 とろみ早見表」
b)とろみ剤の使い方
ご飯に手軽にとろみをつけたい時に役立つのが市販のとろみ剤です。
とろみ剤とは「増粘剤」「とろみ調整剤」とも呼ばれ主に次の3種類が市販されています。
とろみ剤の種類 |
特徴 |
デンプン系 |
・とろみがつくのが早い ・においが変わりやすい ・使用量が多い |
グアガム系 |
・温度によってとろみのつき方が変わる ・経時変化が激しい ・使用量が少なくて済む |
キサンタンガム系 |
・透明感があり食べ物や飲み物の味に影響を与えにくい ・温度によってとろみのつき方が変わる ・経時変化が少ない |
どのとろみ剤でもパッケージに記載されてある使用量の目安通りに食品に入れて混ぜ、2~3分様子を見ることでとろみを安定させることができます。
とろみ早見表を基に作成された水100mlあたりにおける市販のとろみ剤の使用量の目安一覧表もあるため、参考にしてみるのも良いでしょう。
参考:「学会分類2013(とろみ)に基づく各種使用目安量一覧」
c)炊いたご飯からとろみをつくる
炊いたご飯からとろみを作る方法は日本摂食・嚥下リハビリテーション学会が2018年に発表した「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018」の中でペースト粥、ゼリー粥、つぶし全粥、つぶし軟飯の4種類の作り方が参考事例として触れられています。
炊飯時の水加減から作った時の状態の参考画像まで掲載されているので、詳細な作成方法を知りたい人はホームページで確認してみましょう。
参考:「発達期摂食嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018 発達期嚥下調整食分類 (主食表)」
3.とろみを使った嚥下食レシピ
とろみを使った嚥下食レシピとしいて、高齢者に人気のざるそばをご紹介します。
材料
・ゆでたそば(150g)
・お湯(75g)
・ゲル化剤(適量)
・市販のとろみ剤(適量)
・めんつゆ(100ml)
①ゆでたそばとお湯、ゲル化剤をミキサーにかけてなめらかになるまで撹拌します。
②①を鍋に入れ焦げないように混ぜながらひと煮立ちさせ、ラップを敷いたバットに薄く流して固まったら細切りにします。
③めんつゆにとろみ剤を混ぜて完成です。(薬味は飲み込みの状態に合わせて調整)
4.まとめ
誤嚥性肺炎を引き起こす原因となる誤嚥を防止するため、高齢者には噛む力や飲み込む力に配慮した食べやすいとろみをつけたご飯を提供することが大切だとわかりました。
市販のとろみ剤を上手に活用しつつ、高齢者の人の生活の質を高める食事を考えてみてください。