身体を良く動かし筋肉量や筋力を低下させないことは高齢者の方の生活習慣病を予防し、メンタルヘルス向上にもつながるのがわかっているため食事でもそれをサポートしたいけれど、具体的な方法がよくわからないと困っている人はいませんか?
この記事では高齢者に筋肉をつける食事とはどのようなものなのかからレシピまで詳しく解説します。
高齢者になるとおこる変化
高齢者になると加齢により、筋肉量と筋力が共に低下し、運動機能の低下につながります。
人間の身体は筋肉・脂肪・骨・水分から構成されているため、筋肉量とは身体の脂肪・骨・水分を取り除いた量を表す数値で筋肉量の多さは筋力の高さと代謝の高さを意味するのです。
筋肉量のおよその数値が次の手順で求めることができます。
①体重(kg)×体脂肪率(%)=体脂肪量(kg)
②体重(kg)-体脂肪量(kg)=除脂肪体重(kg)
③除脂肪体重(kg)÷2=筋肉量(kg)
筋力とは筋肉が1回の収縮で発揮する力のことを指します。
参考 日本介護予防協会
筋肉量の減少
筋肉の種類には関節の運動を起こす「骨格筋」、胃や腸を働かせたり血流を変化させたりする「平滑筋」、心臓を働かせる「心筋」の3種類があります。
健康な成人の場合筋肉量のピークは25才前後で、40才以降は年に0.5%ずつ減少し65才を超えると減少のスピードは加速し80才までに筋肉の30%~40%が失われるのです。
3種類の筋肉のうち骨格筋は24時間細胞レベルでの合成と分解を繰り返していますが、筋肉分解の速度が筋肉合成の速度を上回れば筋肉量は減少し、筋肉合成の速度が筋肉分解の速度を上回れば筋肉量は増加するという仕組みです。
近年の研究では高齢者は若い人と比較すると、同じ量のタンパク質を摂取しても筋肉を合成するための筋タンパク質合成反応が低いことが明らかになりました。
筋力の低下
20代~30代が筋力のピークで、加齢とともに減少し60才を超えたころには30%~40%低下します。
筋力低下の原因としては次の2つが挙げられます。
①サルコペニア
加齢や疾患によって筋肉量が減少し全身の筋力低下が起こることです。
2016年10月に国際疾病分類に登録されたため、現在では疾患として位置づけられています。
握力が低下するか(男性26kg未満、女性18kg未満)、または歩く速度が低下しており(0.8m/秒以下)、検査で筋肉量が基準より減少していることが認められるとサルコペニアと診断されるのです。
高齢者はサルコペニアになると立ち上がりや歩行が少しずつ億劫になり、放置すると歩行困難に陥ります。
このことから運動や食事でサルコペニアを予防したり、進行を遅らせたりするのは高齢者にとって重要なことと言えるでしょう。
②廃用症候群
廃用症候群とは病気やけがによる過度な安静と栄養不足により、筋力低下を始め身体に起こるさまざまな症状を指します。
廃用性症候群の主な症状を表にまとめてみました。
症状 | 概要 |
筋萎縮 | 筋肉がやせること |
関節拘縮 | 関節の動きが悪くなること |
骨萎縮 | 骨がもろくなること |
心機能低下 | 心拍出量が低下すること |
起立性低血圧 | 急に立ち上がるとふらつくこと |
誤嚥性肺炎 | 唾液や食べ物が誤って肺に入り起きる肺炎 |
血栓塞栓症 | 血管に血のかたまりがつまること |
うつ状態 | 精神的に落ち込むこと |
せん妄 | 一時的に意識障害や認知機能の低下が起こること |
見当識障害 | 時間と場所がわからなくなること |
圧迫性末梢神経障害 | 寝ていることにより神経が圧迫され、麻痺がおきる |
逆流性食道炎 | 胃から内容物が食道に逆流し、炎症がおきる |
尿路結石・尿路感染症 | 腎臓、尿管、膀胱に石ができる、細菌による感染がおきる |
褥瘡 | 長時間の圧迫による血流の低下によりできる皮膚の潰瘍 |
廃用症候群では筋力低下などの身体に及ぼす影響だけではなく、メンタルの状態にまで大きい影響があることがわかります。
廃用症候群も身体を動かすことと、食事で栄養補給を行うことで予防できます。
介護食で筋肉をつけるためには
高齢者に筋肉をつける食事をしてもらうためには介護食におけるレシピに配慮する必要がありますが、どのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
2つご紹介します。
たんぱく質が豊富なメニュー
高齢者に筋肉をつける食事とは何かと考えると、まず思い浮かぶのは筋肉を作る栄養素であるタンパク質を豊富に含むメニューでしょう。たんぱく質は血液や筋肉や骨など体をつくる大切な栄養素です。
加齢により食事の量が減るとともに筋たんぱくの合成力が低下します。意識してたんぱく質を摂る必要があります。
フレイル予防の観点からも、日本の高齢者の場合男性は1日に48 g、女性は1日に 43.3 g以上のたんぱく質を摂取するのが望ましいとされています。(フレイルとは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」の日本語訳。 健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態。)
肉、卵、豆腐などタンパク質を多く含む食品を積極的にレシピに取り入れることが大切です。
参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年度版)」高齢者
筋肉合成を促進するアミノ酸「ロイシン」が多く含まれるもの
前の項目でもお伝えしたように、高齢者は若い人と比較すると同じ量のタンパク質を摂取しても筋肉を合成するための筋タンパク質合成反応が低くなってしまうため、それを促進するアミノ酸である「ロイシン」を積極的に摂取しましょう。
ロイシンはまぐろの赤身、牛肉、牛乳やさんま、卵などに豊富に含まれているため、タンパク質と一緒に意識して摂るのが望ましいでしょう。
参照 日本大百科全書 ロイシン
おすすめの筋肉をつけるための介護食レシピ
高齢者の方がタンパク質とロイシンが両方摂取できて筋肉をつける食事となる肉豆腐のレシピをご紹介します。
材料(1人分)
・牛肉のこま切れ(50g)
・木綿豆腐(1/3丁)
・玉ねぎ(1/4)
・シイタケ(1個)
・えのき(25g)
・醤油(大さじ1+小さじ1)
・酒(大さじ1)
・みりん(大さじ1)
・砂糖(大さじ1/2)
・水(25ml)
作り方
①木綿豆腐をキッチンペーパーの上に置いて水を抜き、牛肉は小さめにカットする
②玉ねぎを串切り、シイタケは軸を落として半分に切り、えのきは石づきを落として食べやすく割く
③フライパンに醤油、酒、みりん、砂糖、水を合わせて軽く溶かし、玉ねぎを入れる
④中火にかけて沸騰したら牛肉を入れ、火が通ったら取り出して豆腐を入れる
⑤豆腐の上にきのこを入れて落とし蓋をし、10分~12分ほど煮込む
⑥牛肉を戻して1~2分温めて完成
牛肉を一度取り出して固くならないようにしているため、高齢者の方でも食べやすい仕上がりとなります。
参考動画 【KTN】週刊健康マガジン 高齢者の健康~食事でつくる高齢者の健康~
まとめ
高齢者の方が筋肉をつける食事とは、筋肉を作るタンパク質や筋タンパク質合成反応を促進するアミノ酸であるロイシンを豊富に含む介護食レシピであることがわかりました。
この記事も参考にして、ぜひ積極的に筋肉量の低下や筋力低下を予防してみてください。